大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和59年(ワ)584号 判決 1985年9月25日

原告

清水フジイ

清水ふみ子

清水富次

清水司郎

春田昭子

高山とよ子

右六名訴訟代理人弁護士

高田昌男

被告

右代表者法務大臣

嶋崎均

右指定代理人

金子甫

外二名

主文

一  原告らと被告との間において、原告らが別紙図面表示のア、イ、ウ、エ、オ、アの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地について別紙持分権目録記載のとおりの持分割合により共有権を有することを確認する。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  清水道男は、昭和二一年二月一六日、駒沢基多から、別紙図面表示のア、イ、ウ、エ、オ、アの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地(以下「本件係争地」という。)も別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)の一部に含まれるものと信じて、本件各土地を買い受け、本件係争地及び本件各土地の占有を開始し、同日、芳野武雄に対し、本件係争地及び本件各土地を貸し渡し、これを占有していた。

2  清水道男は、昭和二七年九月一二日に死亡し、その相続人である原告ら及び清水陽三は、それぞれの持分を各七分の一として、相続により本件係争地の占有を承継した。

3  取得時効

(一)(1) 清水道男は、前記のとおり、昭和二一年二月一六日、駒沢基多から、本件係争地を本件各土地とともに買い受けてその占有を開始するに際し、本件係争地が本件各土地の一部に含まれるものと信じ、かつ、そのように信じるについて過失がなかつた。

(2) そして、原告ら及び清水陽三は、清水道男の右占有取得の日から一〇年間を経過した昭和三一年二月一六日当時、本件係争地を占有していた。

(二) 仮に(一)(1)の事実が認められないとしても、原告ら及び清水陽三は、清水道男の右占有取得の日から二〇年間を経過した昭和四一年二月一六日当時、本件係争地を占有していた。

(三)(1) 仮に右(一)、(二)の各主張が認められないとしても、原告ら及び清水陽三は、昭和二七年九月一二日、前記のとおり清水道男の死亡により本件係争地の占有を承継した日から、本件係争地が自己の所有に属するものと信じ、かつ、そのように信じるについて過失がなかつた。

(2) そして、原告ら及び清水陽三は、右相続により占有を承継した日から一〇年間を経過した昭和三七年九月一二日当時、本件係争地を占有していた。

(四) また、原告ら及び清水陽三は、右相続開始の日から二〇年間を経過した昭和四七年九月一二日当時も、本件係争地を占有していた。

(五) そこで、原告らは、本訴において右各取得時効を援用する。

4  清水陽三は、昭和五八年七月二五日に死亡し、その母である原告清水フジイが同人の権利義務を相続した。

5  ところが、被告は、本件係争地が被告の所有するものであると主張して、原告らが本件係争地につき共有権を有することを争つている。

6  よつて、原告らは、被告との間において、原告らが本件係争地について別紙持分権目録記載のとおりの持分割合により共有権を有することの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、清水道男が駒沢基多から本件各土地を買い受けたことは認め、清水道男が本件係争地も本件各土地に含まれるものと信じたことは否認し、その余は知らない。

2  同2の事実は、知らない。

3  同3のうち、(一)(1)の事実は否認し、その余はすべて争う。

4  同4のうち、清水陽三が原告ら主張の日に死亡したことは認め、その余は争う。

5  同5の事実は、認める。

別紙所在・地番 東京都荒川区西日暮里3丁目無番地

三  抗弁

1  本件係争地は、明治維新以前から一般交通の用に供されていた道路で、明治七年一一月七日、太政官布告第一二〇号(地所名称区別)より、官有地第三種に編入され、明治九年六月八日、太政官達第六〇号「道路ノ分類等級ノ件」により、「里道」として分類され、一定の道幅を確保することとされたものである。右「里道」のうち、重要な道路は旧道路法(大正八年四月一一日法律第五八号)の施行によつて、市町村道に認定されたが、本件係争地は、右認定を受けず、旧道路法ひいては現行道路法(昭和二七年六月一〇日法律第一八〇号)の適用を受けない道路(認定外道路)として現在に至つている。

2  本件係争地は、右のとおり里道であり、一般公衆用として直接公共の用に供されるものであるから、国有財産法三条二項二号にいう公共用財産であり、同法九条三項、同法施行令六条二項及び建設省所管国有財産取扱規則により、東京都知事が機関委任を受けて建設省所管国有財産として管理しているものである。したがつて、本件係争地は、取得時効の対象とはなりえない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は、知らない。

2  同2の事実は否認し、その主張は争う。

五  再抗弁

本件係争地は、清水道男が昭和二一年二月一六日その所有権を取得して以来宅地として利用され、一度も一般公衆用道路として直接公共の用に供されたことはなく、東京都知事が管理したこともないから、既にそのころ黙示の公用廃止があつたものである。

六  再抗弁に対する認否

争う。

第三  証拠<省略>

理由

一1  清水道男が駒沢基多から本件各土地を買い受けたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、以下の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(一)  芳野武雄は、昭和五年ころ、駒沢基多から、本件係争地をもその南側に隣接する本件各土地の一部に含まれるものとして合計約八〇坪を賃借し、右賃借地上に木造瓦葺二階建居宅一棟(以下「本件建物」という。)を建築した。本件係争地上には、本件建物のうち台所部分が建てられていた。

(二)  本件建物の建築当時、本件建物の敷地とその北側に隣接する土地との間は木製の塀で区切られ、本件建物は、右木製塀に沿つてほとんどすき間なく建てられていた。本件建物の敷地とその東側に隣接する公道との間は、大谷石製の塀で区切られ、塀と公道との間には、幅約三〇センチメートルの溝があり、本件建物の敷地と公道との間には、縁石により約一〇センチメートルほどの高低差があつた。本件建物の敷地の西側はがけとなつており、道路状の土地は全く存しなかつた。以上の状態は、本件建物の敷地とその北側隣接地とを区切る木製塀が昭和二五年、六年ころブロック塀に改められたり、本件建物の敷地と公道とを区切る大谷石の塀の一部がその後駐車場設置のため取り壊されてシャッターに取り替えられたりしたほかは、本件建物に時折補修が加えられたりした程度で、昭和五七年一月に本件建物が取り壊されるまで全く変化がなかつた。

(三)  芳野武雄は、昭和五年ころ本件建物を建築した後本件建物に居住を続け、昭和一九年ころ第二次世界大戦による被害を免れるため疎開して一時本件建物を離れたことはあるものの、昭和二〇年ころ本件建物に戻り居住を再開し、同人が昭和四二年に死亡した後は、その相続人である芳野法一が昭和五七年一月ころまで本件建物に居住していた。

(四)  清水道男は、昭和二一年二月一六日、駒沢基多から、本件建物の敷地部分をも含む本件各土地等を代金二五万円で買い受けるとともに、駒沢基多の芳野武雄との前記賃貸借契約上の賃貸人の地位を承継した。

(五)  清水道男は、昭和二七年九月一二日死亡し、原告ら及び清水陽三がその相続人としてそれぞれの持分割合を各七分の一として本件各土地を取得するとともに、本件係争地の占有を承継した。

(六)  芳野武雄は、昭和二五、六年ころまで本件建物の敷地の貸主が駒沢基多から清水道男に変わつたことを知らなかつたが、そのころ右事実を知り、その後は、清水道男あるいは原告清水フジイに対し、毎年地代として相当額を支払つてきた。

(七)  原告ら及び清水陽三は、昭和五六年ころ、本件各土地等の上にマンションの建設を計画し、本件建物の敷地は、駐車場用地とする予定で、昭和五七年一月ころ、本件建物を取り壊し、基礎工事に着手したが、そのころ、東京都から、本件係争地が国有地であるとの指摘を受けた。原告ら及び清水陽三は、右のように東京都から指摘を受けるまで、本件係争地が国有地であることを全く知らなかつた。

2  以上の事実、殊に、本件係争地は、その南側に隣接する本件各土地の一部とともに、昭和五年以来、芳野武雄が駒沢基多から賃借し、その地上に本件建物を建築し、宅地として利用していたものであつて、本件係争地は、その当時から、道路としての外形を全く有しておらず、完全に本件建物の敷地の一部となつていたこと、清水道男は、昭和二一年二月一六日、駒沢基多から右のような状態にある本件建物の敷地をも含めて本件各土地等を買い受け、その際駒沢基多と芳野武雄との右賃貸借契約上の賃貸人の地位をも承継しているのであるから、本件建物の敷地となつていた本件係争地をも右売買の目的物としていたものと推認されること、原告らは、昭和五七年一一月ころ東京都から指摘を受けるまで、本件係争地が国有地であることを知らなかつたのであり、駒沢基多、清水道男、芳野武雄らにおいても同様であつたと推認しうること等によれば、清水道男は、昭和二一年二月一六日、駒沢基多から、本件係争地を本件各土地の一部であると信じて本件各土地とともに購入し、その占有を開始し、引き続き、従来と同様芳野武雄に対し本件建物の敷地の一部として賃貸し、その占有を続けてきたものと認められる。

二取得時効について

1  前記認定のように、清水道男は、昭和二一年二月一六日、駒沢基多から、本件係争地を本件各土地の一部であると信じて購入したものであるが、本件係争地は、昭和五年以来外形上も完全に本件建物の敷地の一部となつており、他方、昭和五七年一月ころ東京都から本件係争地が国有地であるとの指摘を受けるまで、本件係争地を本件建物の敷地の一部として使用していることについて被告や東京都その他の官公署等から異議が出された事実が認められないことにかんがみれば、清水道男は、昭和二一年二月一六日、本件係争地を買い受けてその占有を開始するについて、本件係争地を自己の所有に属するものと信じるにつき過失がなかつたものと認めるのが相当である。もつとも、<証拠>によれば、昭和二一年当時の公図には、本件各土地とその北側にある東京都荒川区西日暮里一〇八八番三の土地との間に道路状の土地が存在するように表示されているが、右土地は、右公図上、同番七の土地の一部とも見うるように表示されており、<証拠>によれば、清水道男は、昭和二一年二月一六日、駒沢基多から、本件各土地とともに同番七の土地も購入しているのであるから、仮に清水道男が右買受けに際し右公図を見る機会があつたとしても、これにより直ちに本件係争地が自己の所有に属しないものと知り、又は知り得べきであつたとは到底言い難い。そして、他に清水道男において右買受け当時本件係争地が自己の所有に属することについて疑念を持つべきであつたと見うる証拠は存在しない。

2  <証拠>によれば、原告ら及び清水陽三は昭和三一年二月一六日当時本件係争地を芳野武雄に賃貸して占有していたことを認めることができる。

3  以上認定してきたところによれば、清水道男は、昭和二一年二月一六日、本件係争地を自己の所有に属するものと信じ、かつ、そう信じたことに過失なく、所有の意思をもつて、平穏公然にその占有を開始し、同人が昭和二七年九月一二日死亡した後は、その相続人である原告ら及び清水陽三がその占有を承継し、清水道男が本件係争地の占有を開始した昭和二一年二月一六日から一〇年後の昭和三一年二月一六日まで平穏公然にその占有を継続していたものと認められるから、他に特段の事情のない限り、原告ら及び清水陽三は、昭和三一年二月一六日限り本件係争地を時効取得したものというべきである。

4 ところで、被告は、本件係争地は里道であり公共用財産であるから取得時効の対象にならない、と主張する。そして、<証拠>によれば、本件係争地が里道であつたことがうかがえなくもない。

しかしながら、公共用財産であつても、それが、長年の間、事実上公の目的に供されることなく放置され、公共用財産としての形態及び機能を全く喪失し、その物のうえに他人の平穏かつ公然の占有が継続したにもかかわらず、そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく、もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなつた場合には、右公共用財産については、黙示的に公用が廃止されたものとして、取得時効の成立を妨げないものというべきである。そして、前記認定の事実によれば、本件係争地は、芳野武雄が、昭和五年ころ、本件各土地の一部とともに駒沢基多から賃借して本件建物を建築し、右当時から本件建物の敷地の一部として占有使用していたもので、道路として利用されることはなくなつており、右の状態は、清水道男が本件係争地を本件各土地等とともに買い受けてその占有を始めた昭和二一年二月一六日当時においても同様であり、その後も、清水道男ないしその承継人である原告ら及び清水陽三は、昭和五七年ころまで本件係争地を芳野武雄に対して本件建物の敷地の一部として貸し渡し、平穏かつ公然に占有を継続して来たが、その間も、本件係争地が道路として利用された形跡は全く存しないのである。これによれば、本件係争地は、昭和五年ころから公共用財産としての形態及び機能を全く喪失し、その後も駒沢基多、芳野武雄、清水道男並びにその承継人である原告ら及び清水陽三により占有を継続されてきたが、そのため実際上公の目的が害されることもなく、もはやこれを公共用財産として維持すべき理由がなくなつたことが明らかであるから、昭和二一年二月一六日当時には既に黙示的に公用が廃止されていたものというべきである。したがつて、被告の前記主張は、理由がない。

そして、他に原告ら及び清水陽三による本件係争地の取得時効の成立を妨ぐべき特段の事情の存することについては、主張立証がない。

5  請求原因3(五)の事実は、当裁判所に顕著である。

三清水陽三が昭和五八年七月二五日に死亡したことは当事者間に争いがないところ、<証拠>によれば、清水陽三には母である原告清水フジイのほかに相続人がいないことが認められる。

四請求原因5の事実は、当事者間に争いがない。

五結論

以上認定説示してきたところによれば、原告らの請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石井健吾 裁判官寺尾 洋 裁判官八木一洋)

物件目録

一 東京都荒川区西日暮里三丁目一〇九〇番一

(旧表示 同区日暮里町九丁目一〇九〇番の一)

宅地 二五七・八五平方メートル

二 東京都荒川区西日暮里三丁目一〇九〇番二

(旧表示 同区日暮里町九丁目一〇九〇番の二)

宅地 五九・五〇平方メートル

持分権目録

清 水 フジイ 七分の二

清 水 富 次 七分の一

春 田 昭 子 七分の一

清 水 司 郎 七分の一

高 山 とよ子 七分の一

清 水 ふみ子 七分の一

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例